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大阪地方裁判所 昭和48年(行ウ)71号 判決

堺市野尻町七〇番地の一九二

原告

梶岡美津子

右訴訟代理人弁護士

坂井尚美

針谷紘一

寺田武彦

大阪市浪速区船出町一丁目三五番地

被告

浪速税務署長

三村睦雄

右指定代理人

細井淳久

外六名

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者双方の申立

(原告の申立)

1  被告が原告に対し昭和四七年九月一六日付でなした原告の昭和四六年分の所得税についての更正処分(以下本件更正処分という)を取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

(被告の申立)

主文同旨。

第二当事者双方の陳述

(本案前の申立についての陳述)

一  被告の本案前の主張

1 被告は、昭和四七年九月一六日になした本件更正処分の通知書を、大阪市浪速区桜川一丁目一〇五八番地(以下単に桜川一丁目一〇五八番地という)の原告宛に発送し、右通知書は、昭和四七年九月一八日、桜川一丁目一〇五八番地において原告に到達した。

原告は、昭和四三年四月二五日、堺市浜寺諏訪森町東二丁一七六番地から桜川一丁目一〇五八番地に転入し、昭和四九年二月一日、右場所から堺市野尻町七〇番の一九二へ転出したが、その間桜川町一丁目一〇五八番地に居住していた。

原告は、昭和四六年分所得税の確定申告書に、原告の住所を桜川一丁目一〇五八番地と記載して昭和四七年三月一五日被告に対し提出し、また原告は、昭和四六年中に、桜川一丁目一〇五八番地梶岡興業株式会社から四六五、〇〇〇円の給与等の支給を受けたが、同会社が作成した原告の給与所得源泉徴収票の原告の住居所欄には桜川一丁目一〇五八番地と記載されていた。

以上のように昭和四七年九月当時の原告の住居所は、桜川一丁目一〇五八番地であるから、被告が本件更正決定の通知書を送達すべき原告の住居所は桜川一丁目一〇五八番地である。

2 原告は、昭和四八年三月一日被告に対し、本件更正処分を不服として異議の申立をなし、次いで同年四月一一日国税不服審判所長に対し審査請求の申立をなした。

3 国税に関する法律に基づく処分で不服申立をすることができるものの取消を求める訴は、異議申立についての決定、審査請求についての裁決を経た後でなければ提起することができない(国税通則法一一五条一項)また、異議申立は、処分に係る通知を受けた日の翌日から起算して二ケ月以内にしなければならない(同法七七条一項)。

よって原告のなした前記異議申立は、異議申立期間経過後になされたものであり、また天災その他右期間内に異議申立をしなかったことについてやむを得ない理由もないから、不適法であり、また審査請求も不適法であり(同法七五条三項)、これらはいずれも不適法として却下された。したがって原告の本件訴は、適法な不服申立手続を経ていないので不適法である。

二  本案前の主張に対する原告の答弁

1 本件更正処分の通知書が昭和四七年九月一七日に原告に到達したとの事実は否認する。原告が、本件更正処分のなされたことを知ったのは昭和四八年一月三〇日である。

原告は、昭和四七年九月ころ、桜川一丁目一〇五八番地には居住も勤務もしていなかった。原告の居住場所は、昭和四八年五月ころまでは堺市浜寺諏訪森町東二丁一七六番地であり、それ以降は堺市野尻町七〇番地の一九二である。

桜川一丁目一〇五八番地所在の建物には、原告の父梶岡実が代表取締役であった水島運送株式会社の本店があった。しかし昭和四七年初頃経営が悪化し、同年六月一七日経営者が変り商号も大南運送株式会社と変更され、以後前記建物は同会社の事務所として使用されてきた。

したがって本件更正決定の通知書が桜川一丁目一〇五八番地へ発送されたのであれば、原告の知らない間に受領権限のない第三者が受領したものと考えられる。

2 被告の本案前の主張2項の事実は認める。

3 原告のした異議申立、審査請求が却下されたことは認める。

原告が、本件更正処分の存在を知ったのは昭和四八年一〇月三〇日であるから、原告の異議申立、審査請求は適法であり、本件訴も適法である。

(本案についての陳述)

一  請求原因

1 原告は肩書地において飲食店を営んでいる者であるが、昭和四七年三月一五日被告に対し、原告の昭和四六年分の所得税につき、総所得金額七三二、二五六円(内訳給与所得金額二七三、二〇〇円、長期譲渡所得金額四五九、〇五六円)、申告所得税額五一、四〇〇円、源泉所得税額八、一九〇円、申告納付所得税額四三、二〇〇円とする確定申告をした。これに対し、被告は、同年九月一六日付で原告に対し所得税額を四、五一二、七〇〇円とする本件更正処分および過少申告加算税二二五、六〇〇円の賦課決定処分をした。原告は、これを不服として、昭和四八年三月一日被告に対し異議申立をしたが、被告は、同月一〇日付で異議申立を却下する旨の決定をした。そこで原告は、同年四月一一日、国税不服審判所長に対し、審査請求をしたが、同所長は、同年八月九日付で、審査請求を却下する旨の裁決をした。

2 本件更正処分は次のとおり違法である。

(イ) 本件更正処分は、原告が、原告所有名義の別紙物件目録(一)記載の土地(以下(一)の土地という)を、昭和四六年一〇月二七日に丸高運送会社に対し、同年一二月六日に山忠運輸株式会社に対し、それぞれ売却し、右売却代金は、合計五〇、〇〇〇、〇〇〇円であるとしてなされたものである。

(ロ) しかし、(一)の土地は、原告の所有名義であったが、実質は原告の父梶岡実の所有であり、梶岡実が売却したものである。

(一)の土地は別紙物件目録(二)記載の各土地(以下(二)の土地という)の仮換地である。梶岡実は、昭和二四年一月二〇日(二)の土地を買受けたが、何らかの理由でこれを原告の所有名義にしたものである。当時原告は一八才であり、(二)の土地を原告が買受けることは不可能であった。原告は、(一)または(二)の土地について公租公課や費用を負担したこともなく、収益も得たこともなく、これらは全て梶岡実に帰属していたものである。また(一)の土地の売買については、梶岡実の友人である田中孝太郎、大久保直記が梶岡実の代理人として取引をしており、その収益も梶岡実が取得している。そして原告は、本件更正処分を知るまで(一)または(二)の土地が原告の所有名義になっていたことは知らなかった。

(ハ) 以上のように(一)の土地を売却したことによる利益は、梶岡実が取得しており、原告は何らの所得も得ていない。

3 よって原告ろ、被告に対し本件更正処分の取消を求める。

理由

一1  被告が、昭和四七年九月一六日に本件更正処分をしたことは当事者間に争いがなく、いずれも成立に争いのない乙第一号証の一、二、第二号証、第三号証の一、二によれば、被告は、昭和四七年九月一六日、本件更正処分の通知書を書留郵便で、桜川一丁目一〇五八番地の原告宛に発送したこと、右通知書は浪速郵便局員によって同月一八日同所へ配達されたこと、右配達につき浪速郵便局が作成した郵便物配達証明書には、その欄外に四七・九・一八代印と付記されていることが認められる。

2  いずれも成立に争いのない甲第七ないし第一一号証、原告本人尋問の結果によれば、原告は、かねて家族と共に桜川一丁目一〇五八番地に居住していたが、昭和二六年頃、道路拡張のため同所の土地の一部が道路敷になったため、堺市浜寺諏訪森町東二丁一七六へ転居したこと、一方原告の父梶岡実は運送事業を目的とする水島運送株式会社を経営していたが、同会社は、桜川一丁目一〇五八番地の残余の土地上にある二階建の家屋を事務所として使用していたこと、同会社は、昭和四七年六月頃経営が悪化したため経営者が変り、商号も大南運送株式会社と変更されたこと、そして梶岡実はその頃から行方が判らなくなったこと、しかし昭和四七年九月頃は、水島運送株式会社当時の従業員が桜川一丁目一〇五八番地の事務所で残務整理にあたっていたことが認められる。次に、、成立に争いのない乙第四号証によれば、原告は、大阪市浪速区長に対し、昭和四三年四月二五日堺市浜寺諏訪森町東二丁一七六から桜川一丁目一〇五八番地への転入の届出をなし、昭和四九年二月一四日右場所から堺市野尻町七〇番地の一九二への転出の届出をするまで、住民票上の住所を桜川一丁目一〇五八番地としていたことが認められ、いずれも成立に争いのない乙第五ないし第七号証と原告本人尋問の結果によれば、原告は、昭和四四年分および昭和四六年分の所得税につき、被告に対し確定申告をしたが、その申告書にはいずれも住所を桜川一丁目一〇五八番地と記載していること、また原告は、昭和四六年中に梶岡興業株式会社から四六五、〇〇〇円の給料等の支給を受けたが、同会社が作成した原告の昭和四六年分給与所得の源泉徴収票には原告の住所(居所)は桜川一丁目一〇五八番地と記載されていることが認められる。更に、前掲乙第五ないし第七号証、成立に争いのない甲第一号証、乙第八号証、原告本人尋問の結果によれば、原告は、昭和四四年当時桜川一丁目一〇五八番地の前記建物でタバコ小売、切手売捌等の商売を営み、同時に水島運送株式会社の業務にも従事し、また昭和四六年当時、桜川一丁目一〇五八番地に事務所を持つ梶岡興業株式会社に勤務しており、昭和四七年六月頃までは前記建物へは常時出入していたこと、原告は前記確定申告書の作成等の手続を水島運送株式会社の従業員に依頼して行っていたこと、そして昭和四七年秋からは前記建物の近くの大阪市浪速区桜川一丁目一〇七一番地において飲食店(うどん屋)を営むようになったこと、また原告は、桜川一丁目一〇五八番地において、長男および長女を被保険者とする簡易生命保険に加入し、同所において浪速稲荷郵便局へ保険料を払込んでいたことが認められる。

以上認定の事実によれば、本件更正処分の通知書は、原告の住民票および確定申告書記載の住所地である桜川一丁目一〇五八番地へ、昭和四七年九月一八日書留郵便によって配達され、当時同所で残務整理にあたっていた水島運送株式会社の従業員が原告の代人としてこれを受取ったものと推認され、それにより原告においてこれを了知し得べき状態におかれたものというべきであり、本件更正処分の通知書は右同日原告に送達されたものといわねばならない。

3  原告が昭和四八年三月一日被告に対し、本件更正処分を不服として異議の申立をしたが、被告がこれを却下する旨の決定をしたこと、そこで原告は同年四月一一日国税不服審判所長に対し審査請求の申立をしたが、同所長はこれを却下する旨の裁決をしたことは、当事者間に争いがない。

二  本件の如く税務署長がした所得税の更正決定の取消を求める訴は、更正処分に対する異議申立についての決定、審査請求についての裁決を経た後でなければ提起することができず(国税通則法一一五条一項、七五条)、異議申立は、処分があったことを知った日(処分に係る通知を受けた場合にはその受けた日)の翌日から起算して二ケ月以内にしなければならない(同法七七条)。しかるに前記の事実によれば、原告が、被告に対してなした異議申立は、本件更正処分の通知を受けた日、すなわち前記通知書の送達を受けた日の翌日から起算して二ケ月を経過した後になされたものであつて、法定の異議申立期間を徒過していることが明らかであり、天災その他右異議申立期間内に異議申立をしなかったことについてやむを得ない理由があったとも認められないので不適法であり、したがつて前記審査請求も不適法である。そうすれば、原告の本件訴は適法な不服申立の手続を経ていないこととなり、不適法といわねばならない。

三  以上の理由により原告の本件訴を却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 奥村正策 裁判官 寺崎次郎 裁判官 山崎恒)

目録

(一)大阪市浪速区桜川壱丁目湊町工区七〇の壱

一 宅地 四七壱・五六平方メートル

(二)(1)大阪市浪速区桜川壱丁目壱〇五九番壱五

一 宅地 四〇九・参四平方メートル

(2)右同所壱〇五九番七

一 宅地 参・参九平方メートル

(3)右同所壱〇五九番壱弐

一 宅地 壱四壱・〇弐平方メートル

(4)右同所壱〇六壱番四

一 宅地 壱六九・五八平方メートル

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